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東京地方裁判所 昭和44年(ミ)2号 決定

更生会社 山久炭素工業株式会社

主文

本件更生計画は、別紙目録記載のとおり更生債権者のためにその権利を保護する条項を定めてこれを認可する。

理由

本件につき管財人から当裁判所に提出された更生計画案は、昭和四五年二月二七日開催の更生計画案決議のための関係人集会において、更生担保権者の組においては、議決権を行使することのできる更生担保権者の議決権の総額全部に当る議決権を有する者の同意を得られたが、更生債権者の組においては、議決権を行使することのできる更生債権者の議決権の総額一三五、三一六、五一一円、可決に必要な議決権の額九〇、二一一、〇〇八円であるのに対し、八八、一八四、九〇五円の議決権を有する者の同意を得たにとどまり、可決に必要な議決権額を有する債権者の同意を得ることができなかつたものであるが、本件更生計画は会社更生法第二三三条第一項所定の要件を具備しているものと認められるばかりでなく、右のとおり更生担保権者全員がこれに同意していること、更には更生債権者の組においてもその議決権の総額の約六五パーセントの債権者はこれに同意していること等の事情を考慮すると、これを認可せず直ちに本件更生手続を廃止するのは相当とはいえず、本件については会社更生法第二三四条第一項を適用し、右更生計画に不同意の更生債権者の組に属する者のためにその権利を保護する条項を定めてこれを認可するのが相当であると考える。

そこで、右条項にいわゆる更生債権の公正な取引価額を算定するわけであるが、右価額は企業の清算を前提として評価された会社資産から上位債権者の権利の引当となるべき資産を控除したものというべきところ、当裁判所が選任した鑑定人鐘ケ江晴夫の鑑定の結果、管財人作成の財産価格評定書および前記更生計画案によれば、同計画案の立案基準日(昭和四四年一〇月三一日)における更生会社資産の清算価格は

1  土地      一八、七三〇、〇六〇円

2  借地権付建物

(多治見工場) 三八、〇四五、〇〇〇円

(天頂工場)   七、九二三、〇〇〇円

3  機械装置    一一、八三五、五〇〇円

4  付器備品       九〇〇、五〇〇円

5  車輛運搬具      五六五、〇〇〇円

6  現金         五一六、六四八円

7  預金       三、二四八、七六四円

8  受取手形     八、七五九、四九五円

9  売掛金     一〇、二五三、四四〇円

10  前渡金     三、八四五、八八〇円

11  棚卸高    一九、七九六、六七二円

12  立替金       一四〇、〇〇〇円

13  出資金       三一七、〇〇〇円

14  仮払金     一、二九四、七四七円

15  支払生命保険料 四、七二〇、五八二円

16  電話加入権     一九七、三〇二円

合計     一三一、〇八九、五九〇円

であり、これに対し負債は

1  共益債権    二七、一二四、六七八円

2  更生担保権   二六、八八八、〇五三円

3  優先的更生債権(公租公課) 一五、〇八八、〇八六円

(昭和四四年一〇月三一日迄の加算税延滞税等一、四一六、一〇〇円を含む)

小計      六九、一〇〇、八一七円

4  更生債権

(1)  優先的更生債権(退職金) 一、一六二、五三〇円

(2)  一般更生債権 一三四、一五三、九八一円

小計 一三五、三一六、五一一円

合計 二〇四、四一七、三二八円

であることが認められる。これによれば、一般更生債権の弁済にあてられるべき資産の額は、右全資産額から上位債権者の債権総額七〇、二六三、三四七円(右123及び4の(1) の合計額)を控除した六〇、八二六、二四三円であり、これをもつて右一般更生債権の公正な取引価額と定めるを相当とする。

したがつて、一般更生債権者に対しては、平等に債権額の四六パーセント(右の更生債権の弁済にあてられるべき資産の額を一般更生債権額で除すると約〇、四五三となるが、便宜上小数点三位以下を切り上げて四六パーセントとする。)を支払うこととすれば一応、その権利は保護されるというべきであるが、一方株主の権利の切捨率は五〇パーセントであつて、これとの関係において適正な差等を保つた利益が確保されないばかりか、かえつて不利益となるわけであり、前記更生計画案によれば、一般更生債権者は債権額の七〇パーセントないし一〇〇パーセントの弁済を受け得ることになつており、その弁済期間も特別利害関係人等一部の者の債権を除いては比較的短期間であるから(その詳細は右計画案記載のとおりである。)、債権者によつては、右計画案による弁済の方がむしろ有利と思われるだけでなく、前記のとおり一般更生債権者の議決権の額の三分の二に近い者は更生会社の存続を是認して右計画案に同意しているのであつて、かかる事情を勘案すると会社更生法第二三四条第一項第三号のみによつて更生債権者の組に属するすべての一般更生債権者に一律に債権額の四六パーセントの弁済を強制するのは妥当ではなく、同項第四号をも適用して各債権者に対し、右計画案による弁済方法と右の四六パーセントを即時に弁済する方法のいずれをとるかの選択権を与えるのが相当である(ただし、右債権者のうち加藤久太郎及び加藤久義は特別の利害関係人であつて、一切の更生債権の弁済完了後に弁済を受けることにつき個別的な承諾をしているのであるから、同人らについては権利保護条項を設ける必要がないと考える)。

なお、本件記録および昭和四五年三月二六日、当裁判所が管財人を審尋した結果によれば、更生会社は右計画案で定められている以外に前記会社資産を現実に売却しなくても優先的更生債権者(退職金)に対しては債権全額を、一般更生債権者に対しては債権額の四六パーセントを別紙目録記載のとおり弁済し得ることが認められる。

よつて、会社更生法第二三四条第一項第三号、第四号に則り、右計画案を別紙目録記載のとおり変更し、もつて更生債権者のためにその権利を保護する条項とするものであるが、本件更生計画が同法第二三三条第一項所定の要件を具備しているものと認められることは前記のとおりであり、右計画を右のように変更した場合においても同様にこれを肯定し得るので、これを認可することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 安岡満彦 丸尾武良 根本真)

別紙 目録

一、第一章第三節8の次に

「9、優先権ある更生債権のうちの退職金および一般更生債権の各債権者(但し、上記7の更生債権者を除く。)については、その選択により上記4および5の弁済方法に代えて、退職金債権者は昭和四五年五月末日までにその全額の弁済を受けることができ、一般更生債権者は右同日までに各債権額の四六パーセント(一〇円未満の端数は切り上げるものとする。)の支払を受けることができるが、その場合には残額を免除する。」

を附加する。

二、第二章第三節第三項1の次に

「2、または債権者の選択により上記弁済方法に代えて、昭和四五年五月末日までに債権額全額を弁済する。

3、債権者が上記2の弁済方法を受けるには、昭和四五年四月末日までに更生会社本店(東京都中央区宝町一の四)に到達した書面でその旨申し出なければならず、右期日までに申出がない場合は上記1の弁済方法を選択したものとみなす。」

を附加する。

三、第二章第四節第三項10の次に

「11、債権者の選択により上記2ないし4および6・7の定める権利の変更ならびに弁済方法に代えて昭和四五年五月末日までに債権額の四六パーセント(一〇円未満の端数は切り上げるものとする。)を弁済し、残額は免除を受ける。

12、債権者が上記11の弁済方法を受けるには、昭和四五年四月末日までに更生会社本店(東京都中央区宝町一の四)に到達した書面でその旨を申し出なければならず、右期日までに申出がない場合は、上記2ないし4および6・7の定める方法を選択したものとみなす。」

を附加する。

以上

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